夕べ泣きすぎて目が痛い。やはり一緒に住んで3年、こういうときの慰め方が相棒、だんだんおざなり~になってきた。昔はもっとリキ入ってたぞ。私がそう言うと「おまえかって昔は口答えなんか全然せえへんかった。越来越不像話」と言う。阿呆、それはせえへんかったのではなく、語彙がたりなくてできなかっただけだ。
お互いさまである。
相棒が峨眉山でなくしたさし歯をやっと作る気になったので、歯医者へ行く。若い女性の医者であった。相棒は歯医者は女性のほうが細工が丁寧という信仰をもっているので、さっそくお願いすることにする。してみてびっくり、4000B。うっひゃあ。香港よりやや安いか?というぐらいで、ほとんど変らない。しかしまあ、診療器具も見たところ日本とかわらんし、清潔な医院なのでそんなもんなのだろうかと半分思いつつ、半分はガイジンと見てふっかけてるなーと思いつつ、しかし歯医者なんかで値段交渉をして適当なやつをつくられても困るので、私の心は千々に乱れた。しかしだな、いいものであれば何年も、そして毎日毎食つかうのだし、それにだいたい私のではないのだ。歯の悪い相棒の、せめてものさし歯なので、いいものをつくってやりたい。
そこで相棒が「高すぎる。別の医者へ行って値段を聞いてみよう。」と言ったときに、「ええから作りなさい、歯は大事なもんやねんし、健康の基本やねんから。」と、医者にゴーサインを出してしまった。型をとってデポジットの2000Bを払って出てきてから、その辺の店で新聞(タイでは中文紙が結構どこでも買える)を買うついでに、店のおばちゃんと交わした会話。
相棒「このへんで入れ歯つくったらどのくらいするの?」(廈門語)
おばやん「長いこと作ってないから知らんけど、100Bぐらちゃうの?」(潮州語)
私「それは30年前の価格やろ」(大阪弁)
相棒「今そこの歯医者で入れ歯つくってもらったら、4000Bって言われたぞ。」(廈門語)
おばやん「ああ、4000Bあったら全部作れるねえ」(潮州語)
相棒「全部ちゃうねん、一本だけ。」(廈門語)
おばやん「なんやて?」(潮州語)
相棒「だから、一本で4000B。」(廈門語)
おばやん「ひょえええええええええ!!!」
吉本そのままのような驚き方をするおばやんであった。そしてさっそく、ちょうどそのとき新聞を買いにやってきたご婦人にご注進。潮州語とタイ語こもごもで、たった今の驚くべきトピックを報告している。ご婦人もあちゃーという顔で我々を見て絶句。
私「医者で値段交渉ってするもんなんでしょうか、タイでは?」(普通語)
ご婦人「できますよ。」(普通語)
相棒「あああ、俺は阿呆や、なんで正直に香港から来たって答えたんやろ。中国人やって言えばもっと安かったかも知れんのに」(普通語)
私「算了ba、こんなけ払った一番ええのを作ってくれるやろ。一分銭、一分貨やで。」
ご婦人「そうそう、安いかわりに質の劣るものを買っても仕方が無いですよ。」
相棒「普通はどのくらいするもんなんですか?」
ご婦人「2000Bぐらいでしょうか。でも、交渉次第では1500Bとか1000Bでもできると思いますよ、品質が違うでしょうけど…。一番高くて3500Bぐらいでしょうかね。よく知らないけど…」
相棒「香港では医者で値段交渉というのはないので、高いと思いつつ言えなかったんですよ。」
ご婦人「算了、タイの記念と思って忘れなさい。」
ご婦人が教えてれた相場は、我々の気持ちを慮って言ってくれた価格だと思う。この日一日にとどまらず、翌日も相棒はご機嫌が悪かった。別に私にあたるわけじゃないけど。これで終わりじゃなく、一週間後にはまたこの医者に行ってさし歯を合わせてもらい、残りの半額を支払わねばならない。私はなぐさめてあげようと思って、だまってバスタオルを洗ってやった。