***このブログについて***

書き続けている日記のうち、旅行記をここにまとめておきます。右サイドメニューの「その他の旅行」から各旅行の目次に飛べます。サイドメニューの下のほうの「痩公胖婆400天渡蜜記」は、一年と少し(1996/03/31 - 1997/06/01)にわたった新婚旅行の記録の目次です。気が向いたときにぼちぼちあげています。

2012年4月3日火曜日

day 05 高度順応日・帰りの足の手配

起床。高山病の症状は全く出ていない。かつ、過去二週間にわたって私を苦しめていた胃痛・背中の痛み等が完全に消失。素晴らしい朝。やはり私は旅行をしていないとだめですな。ゴアテックスのジャケットの内側にダウンジャケットをしっかり装着して出発。ラサの古い町並みの中の狭い通りを楽しくさまよっていると、ローカルで混み合っている素敵な茶館があった。

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ヤクバター入りの例のチベット茶(酥油茶)かと思ったらちがい、普通の奶茶(ミルクティー)が一杯6毛。ここでは甜茶と呼ばれていた。入り口に積んである小さなグラスを自分で取り、好きな席に座って大きなやかんを持った従業員を待つ。お茶を入れてもらうと一杯0.6元払うというシステム。みなさんは数元の現金をテーブルに出しっぱなしにしていて、お茶汲み担当の従業員はお茶を注ぐたびにそこからお代を徴収していた。周囲を見ていると、麺を食べている人がけっこういた。食べてみた。沖縄のソーキそばによく似た味のものが出てきた。4元/碗。おいしかったよ!黙っていると辣椒を山盛り入れられてしまうので、注文の時にひとこと添えたほうがよろしい。

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人々の話し声が低くぶんぶんうなる羽虫の羽音のように響く。四川の茶館とか、在りし日の香港の小さな飲茶の店なども、こんな感じで常連の集う場所だったのだろうと思う。明らかに毛色の違う私たちはちらりちらりとは見られたけれど、排他的な視線を受けたわけではない。ラサ人はとても洗練された都市民で、この茶館の客人たちははきわめて礼儀正しく人当たりの柔らかな人々だ。それは漢族に対してすら。わたしたちとて、この場所でカメラを取り出して周囲を撮影しだすほど傍若無人に厚かましくはなれなかった。ホントは写真を撮りたくてたまらなかったけどね!そのくらい、素晴らしい場所だった。

食べて飲んで体が温まったところでバルコル(八廓街/八角街)へ。それにしても公安の多さには目を見張るばかり。あちこちに派出所があり、公安、特警、武警、民警、輔警、ありとあらゆる規律部隊が見張っている。そして便服(私服警官)も。

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右が警官。奥に特警の装甲車が見える。

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大昭寺(ジョカン寺)の周りを時計の針の方向にグルグルと回る。露天の土産物売り屋で早速我慢できなくなって、チベット人の老婆から大きな蜜蠟のピアスを買う。開価(言い値)80元が落とし値50元。ほんとは多分20~30元ぐらいかなあ。老婆が「握ってい暖めると蜜蠟のいい匂いがするよ!」、と言う。嗅いでみたら大嫌いな酥油(ヤクバター)の匂いで笑ってしまった。

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露天ではないちゃんとした店でターコイズのピアスが200元、指輪が400元。買うかどうかは旅の終わりに決めよう。

天眼珠を扱う土産物屋の女性二人としゃべっていた夫が小さな声で、奥さんは漢族か?と聞かれた。こんなところで中国人じゃないとバレるものかと心臓が飛び上がったが、表情を全く変えないままに「ん?」という顔で黙ったら、蔵族(チベタン)じゃないのかと聞かれて、ほっと胸をなでおろした。これまでにチベタンと間違われたことは何度もある。ネパールとインドではしょっちゅうだったし、中国でも回族と維族(ウィグル人)から何度かそう尋ねられたことがある。が、当のチベタンからそう聞かれるのはさすがに初めてなりよ。

眼鏡を外して「像不像?(似てる?)」と顔を向けると、声が上がった。そうか、私はそんなにチベタン顔か。蔵族か蒙古族かとはよく聞かれると答えると、二人は「あ~、蒙古族にも見えるわね~」と、ものすごく納得していた。実のところ香港ではよく上海人かと聞かれるけどな…。


ホルンのような長い笛を売る店。

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蔵戯(チベット劇)の仮面。

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ラサの街なかの建物はこんな感じ。窓枠が台形だと、ああチベットの風情だなあとしみじみおもう。

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日が登ると一気に暑くなった。宿に戻ってダウンジャケットを脱ぐ。懸案の、帰りの足を手配しに行く。もともとラサから広州か成都に飛ぶ予定であったが、寝台列車好きの二人とも青蔵鉄路に魅せられてしまい、もう一度乗りたくて仕方がなくなったしまったのだ。で、誰はばかることなく当然そうする。行き当たりばったりの旅というのはこういうのがよろしい。民航へ行き、西寧から深セン行きの席に空きがあることを確認してから、ラサを出る寝台列車の切符を買いに行く。難なく買えた。タクって民航に戻る。運転手が安徽省からラサに出稼ぎに来て10日目という人で、乗るなり「あんたたち何人?アメリカ人?どこ行くの?行き先までの道知ってる?」美国華僑かという意味なのだろうが、やっぱ中国人とは違って見えるのかな。民航でとりあえずチケット入手して、これで帰りの足は確保。ポタラ宮を外から眺めに行くことにする。

ポタラの方角へぶらぶら歩いていると、ショッピングセンターの入り口にちゃぶ台と風呂椅子を出して、竹の筒に入った手作りのヨーグルトを売る老婆がいた。目が合うと「座れ。」と短く言われたので、素直に腰を下ろす。ヨーグルトは甘からず酸っぱからずほどほどの出来で、量も多からず少なからずなかなかおいしかった。小柄な漢族の老婆に「里はどこ?」と尋ねると、なんと広東。廣東話に切り替えると、いや、潮州だと。潮州話と閩南話は7割ほどは通じるので、夫は閩南話に切り替えて話を始めた。しかし老婆の潮州話はすっかり怪しくなっていていくらも続かず、あちらから普通話で話し始めた。

部隊(軍隊)内の中学の教師である夫について、60年代に西北に来たのだそうだ。息子を二人生んだが部隊育ちなので、彼らは潮州語を一切話せない。今はラサに住んでいるが、昔はゴルムドに長く住んだ。ゴルムドは住みやすい。チベット族が少なく回族が多い。早く引退してゴルムドに戻って余生を送りたい。「回族講理、蔵族不講理。(イスラム教徒は筋の通った話をするが、チベット族はまともな話ができない)」。聞いていて切なくなった。彼女の生活における体験として、それは事実そうなのだろう。それはある面そうかもしれないのだが、だがしかし主のいないポタラ宮の上に翻っている旗は現実これだ。筋だのまともな話だのを始める気にならないことがあるのも道理ではないのか。

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ポタラの前でレンズを望遠に交換している私を見て、「五星紅旗をアップで撮る気やろ。」と夫は笑った。見ぬかれてますなあ。20年近い同居生活は伊達ではない。


主のいない宮殿はは美しかった。

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美しかった。

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桜が咲いていました。原産地はヒマラヤだそうですからな。

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インドでも咲くのだろうか。ダラムサラで咲いているといいな。

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さて、この時点で用意してきた10000元がほぼ半分になったことを確認、もう少し替えとくかという話になった。チョモランマを見に行く気なら、車のチャーター代にあと数千元は必要である。行かないならこれで充分足りるがな。輪タクに乗り、中国銀行に連れて行ってもらうも、着いたところは中国建設銀行。そこからさらに中国銀行を探すも、4時で閉まるらしくシャッターは半分降りていた。諦めて遅い昼食を取ることにする。腹がへりへりなので慣れない食べ物にチャレンジするチャンスだと思い(空腹は最良のソース)、チベタンの店にゴー!チュール-という白いスープに肉ときくらげとにゅうめんのような細い麺が入っているものと、ロンガーモモというパンに似たもの、そして朝と同じ麺を注文。ロンガーモモは結構濃厚にヤクバターの匂いがしたので、空腹で良かったと心から思った。(私はヤクバターがほんとに苦手、酥油茶(バター茶)が飲めない)

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朝の茶館へ行き、大根の漬物をあてにミルクティーを飲む。この大根の漬物がうまいのなんのって、首の紅い大根なので漬けると薄いピンク色が美しく、蘿蔔妹(←『大根喰い娘』・香港語で日本人女性のこと)の私にとっては馥郁たる大根のかほり(夫にとってはただの悪臭)が思った通りの味で、ばつぐんにうまかったですだすどす。思い出してもヨダレが落ちる。

疲れるまで歩きまわり、焼き芋とトマトとみかんを買って宿へ戻った。これはその時見た乳製品の露天売り。左下のくるんとしたのは牛乳菓子。右上の豆腐みたいに四角いのは干しチーズで、口に入れて時間を掛けてモゴモゴしがむのだそうだ。

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芋とトマトを食べつつ、高山反応もなさそうということで、一杯飲みに再び出撃。ホテル出るのと同時に、制服を着た漢族の公安が二人、入れ替わりにホテルに入るのとすれ違った。夫と二人で眉をひそめて見送る。まあ、我々に真面目な用があるなら、日の暮れる時間になってから来るってことはないんじゃないかな。朝来てたら緊張しまくるところだが、このまま飲みに行ってしまえ。

香港人バックパッカーが旅の終わりにラサで開小さなカフェ兼飲み屋で、地元のラサビールをふたりで一本。あっさりと癖のない美味しいビールだった。ラサビール15元、ピーナッツ10元。

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飲むと腹がへり、昨日の川菜館で牛肉麺。10元。細くつるっとした歯ざわりの麺。老板娘(おかみさん)が言うには、蔵族のレストランでは高圧鍋を使っていないので水が沸騰しておらず、麺が茹で上がらずに歯にくっつくような粘度の高い歯ざわりだっただろう?とのこと。まさにそのとおりでした。帰って風呂は省略して就寝。