昨日の四川菜館で朝メシ。朝食帰りに、道端の掲示板に貼ってある今朝の新聞を読む。「党指導者のポスターをもう一枚私に」ねーよ。60年代や70年代じゃあるまいし、内地じゃとっくにねーよこういうのは。と、夫がブツブツ言いながらこの写真をとった。
バス停に行く。9時にバスがあるだろうとなんの根拠もなく考えてのっそりとバスターミナルに行ったら、バスは8時55分発だった。なんだそれは。危うく乗り遅れるところだった。郊外へ出ると一面の雪景色になった。
来るときはさわやかな初夏の光景だったのに、帰りは真冬で一粒で二度おいしい、これは珠峰(チョモランマ)を見に行けない私達に神が与えてくれた恩寵、などとおめでたいことを考えてにまにま笑っていたが、そのうち降雪がひどくなり、積雪が10センチを越えたあたりでバスのタイヤが心配になってきた。もちろんスノータイヤなどははいておらず、それどころか中国の公共バスなんてのは日本の車検なら絶対に通らないようなつるんつるんのタイヤのことも珍しくない。このバスはどうだろう。
トイレの問題もある。Diamoxの副作用で小用がたいへん近くなっており、雪をかき分けて場所を探すのはやだな…。長距離バスの休憩でトイレがないってのは、内地ではさすがにあんまりない。私の経験では20年近く前に寧夏のド田舎で一度あったきりだ。新疆ですらなんとなくあった。内壁(個室の仕切り)ではなく用足し場そのものの外壁の高さが「腰まで」ってのもあったけどな。あと中巴公路で一度、全く無くて草原でしたことはあった。そのくらい。しかしラサ・シガツェ間では数回の休憩でトイレがあったことが一度もなかった。全部そのへん。一度などは私を含めた三人の女性がズボンを下ろすなり、中サイズの豚がぶひぶひ近寄ってきて、これってやっぱりアレを食べるのかのう…。バスに戻って夫に告げると、「うっひゃー!西蔵では二度と豚肉は食わんぞ!蔵人看不起漢人都有道理!(チベット人が中国人を軽蔑するのも無理はない)」と。別に宗教的な禁忌はないが、チベタンが豚肉を食べることはあまりない。
乗客の検査は一度もなく、無事ラサ到着。悶着を避けたく、もとの宿に戻る。荷物を下ろして八角街へ。
いかにも知識人然とした年配の男性と会釈をかわす。色白のラサ美人たち。五体投地をする巡礼に立ち交じる拉薩公安。モンゴル人なのではないかと思われる男性。ほとんど顔見知りになったご老人には、「またおまえさんか。」と笑われた。
懸案でありましたターコイズの指輪を買う、露天の店のものとは明らかに質の違う銀細工。うずらの卵ほどの石にスパイダーウェブが綺麗に散った、多分染色もスタビライズもしていないものを選んだ。値段はなんと量り売り。380元を夫が気持ちだけ値切り、350元で買う。石自体は整形していないナゲットなら10元とか25元とかからあるので、これは石の値段ではなく銀とその細工の値段、および私の満足代。細工からするとネパール製だと思うが、石はチベットのものだと思う。チベット高原の、空の色。(よりはちょっと明るいかな。)
巡礼に混じってジョカン寺の周りを歩く。どこかで見たことのある、濃紺よりやや明るい青のチベット服に、石や飾りを付けずに刺繍入りの飾り帯を結んだ女性が数人、私たちを追い越した。夫が声を掛けた。「你們是不是雲南來的?(あなた方は雲南からでしょう?)」振り返った女性が「對,我們是香格里拉的。(そう、私たちはシャングリラから来たのよ。)」と答えた。私が思わず「呵!中甸來的呀!(ああ、中甸からなのね!)」と返すと、女性たちは皆いっせいに振り返って笑み崩れた。中甸は外来語にちなんだ風変わりな名に地名を変えたが、周囲の地元民の間では長ったらしい新名称よりも旧称のほうが通りがいいことを、五年前に再訪した私たちは知っていた。中甸の名刹の名が松賛林寺であることも覚えていた。なぜなら今でも夫の左手首にはその寺でもらった小数珠がかかっているのだから。歩きながら少しだけ話をした。それから「日が暮れるまでにあと10周はするから、またね!」と、彼女たちは足を早めた。
大昭寺を離れて小昭寺へ向かった。何かの法式(儀式)中だった。
さて夕食。青蔵回族の屋台で夫がシシカバブと羊の腎臓を焼いてもらっている間に私が屋台の後ろに置かれた風呂椅子に腰掛けて煙を避けつつ焼きあがるのを待っていると、ラサ特警の皆さんが同じ屋台に来てシシカバブを注文し、私の両隣に座った。この体格の良い兄ちゃん達はいつでも私を連行できる権限があるわけだ…。そう考えていると、不謹慎なメロディが脳裏に湧き上がった。「拉薩特警(La1 sa4 te4 jing3)の皆さんといっしょに、烤羊肉(kao3 yang2 rou4)~!」「ラサ特警の皆さんといっしょに、シシカバブ~!」 そっそふぁっふぁみっみれっれどー♪(アルゴリズム体操) いっしょに記念写真を撮りたかったがやめておく。官憲をおちょくって得は何一つない。
ちょっと疲れたらしい。宿に戻り、バタリと就寝。あすはポタラだ。