タクシーと交渉。西夏王陵の主用地点を2箇所めぐって3時間で60元と話をつける。市内からは40分で到着。一面の銀川平原の中に、唐突に土の塔がぽつぽつ立ち並んでいるのは異様な光景であった。思わず鳥肌がたつ。
王陵は高さ15~20mぐらいだろうか。小さい物は陪葬墓であろう。王陵の周りをゆっくりあるいていたら、カチカチと高い金属質の音がする。足元をよく見ると、石だと思っていたものはすべて瓦の破片であった。こんなに大量の瓦を誰かがここまで捨てに来たとは考えられないから、ああ、そうだ、これは西夏時代の瓦だ、日本で言うと平安中期ぐらい。日本人にとってはたいした昔であるが、中国人にとってはたいしたことないんだろうな。
で、瓦の破片だし―、野ざらしで羊のフンまみれだしー、と自分にいいわけしつつ、3かけらほど拾ってしまった。相棒がそれを見ていい顔をしない。倫理観に抵触するというより、墓のものを持って帰るなんて不吉だというのだ。
第一の王陵から第二・第三のものへと向かう途中、タクシーが未舗装の土路で運悪く穴にはまってしまった。車から降りて後ろから押したり、石をかませたりするも、なかなか動かない。そうこうしているうちに、折悪しく雨が降り始めた。痛いような雨だ。雨の中を押したり引いたりしているうちに、タイヤがパンク。尖った石のかけらを踏んだらしい。相棒が私にさっき拾ったものを捨てろという。強欲な私、捨てない。我ながら絶対に大きい方のつづらを取るタイプだな。
雨の中をタイヤ交換。やっと脱出。皆ずぶぬれになってしまった。さて、第二第三の王陵は第一のものよりもさらに階層の境目がはっきり残っており、総じて好看であった。しかしこの雨の激しさよ。
サルのように元気な相棒は、どかどかと遠くの方まで走ってゆき、私はゆっくりと二つの塔の周りをめぐった。羊と羊飼いたちが王陵の傍らで横なぐりの雨をやり過ごそうとしている。旅情をそそる光景だ。雨はさらに激しく、地面はさらに滑りやすいので足元に気をつけつつ歩いていると、美しい緑色の陶器の破片が目に入った。なんてこったい!
緑色のうわぐすりのもの、そして昨日博物館で見た壷の破片と同種の陶器と思われる茶色のうわぐすりの陶器の破片が散らばっている。さっきの瓦の破片より焼きの温度が低いらしく、金属質の響きはないものの、色合いがとても美しく、うわぐすりの光沢がよく残っている。もとはなんだったのだろう?これも瓦か?
緑色の破片を二つ、茶色のをひとつポケットに入れた。私は帽子をかぶっているが、戻ってきた相棒は水にはいったようにずぶぬれだ。私の戦利品を見て、「この雨は祟りだ、早く捨てろ。」と言う。大きなつづらの老婆、やはり捨てない。相棒が寒い寒いというので、急いでホテルに帰った。
部屋に帰るとちびぞうがひもつき首輪(私の銀のピアス)から脱走していた。ベッドの下、机の下、どこにもいない。ドアの下から逃げたかなあと茫然としていると、私のバックパックの中から「なんですかー?」という顔をのぞかせた。…かわいそうだが、首輪を少し小さくする。
ヒマワリをひとつひとつむいてやるのが面倒なので、今日のごはんはピーナッツ。しかし半分に割って砕いてやらねばならぬのは同じ。おやつは西瓜。私がちびぞうにかかわりっぱなしなので、相棒のご機嫌がよろしくない。嫉妬しとるのだ。うはは。「はよ放してしまえ!」というが、私は知っている。私が寝ているのを確認してから(私は寝たふりをしていた)、ちびぞうを見に行き、座り込んでずっと相手をしていたことを。かわいいやつめ。