碧塔湖へ日帰りで行くことにする。ジープを包車して200元。アメリカ人の男の子、フランス人のじいさんの4人でシェア。
碧塔湖一帯は自然公園になっており、その入り口まで中@から25キロ。ただし舗装されていない岩だらけの道なので、ジープ以外の車は行きたがらない。ジープで舌をかみそうな振動に絶えつつ1時間半。馬の方が早いかも。
さてチケット8元、外人20元、アメリカ人の男の子がカンカンに怒っている。そりゃそうだよなあ・・・、お気の毒。入場すると納西族とチベット族混成の馬幇(馬子)が寄ってきて、馬に乗るなら湖まで往復40元、外人50元だという。外人二人が外人料金にぷんすか怒っており、乗らないという。私も40元は結構高いなあと思い、とりあえず歩いてみることにした。元謀で落馬しかけた経験があるので、ちょっと恐かったせいもある。
しばらく歩いてブッシュにさしかかり、歩きづらくなってきたところへ馬幇が35元と言い、私は乗ることにした。標高3300m、やはり運動はツライ。
乗ってよかった。山あり谷ありせせらぎありぬかるみあり薮あり。道が悪くて馬は駆け足にならないので、落馬の心配はなさそうだ。しかも私の乗ってる馬は特別おとなしく、決して小走りにならない。馬幇がいうには馬にももちろん性格があり、先頭を勤める馬はおとなしく他の馬の後ろを歩くことができず、反対に私の乗ってる馬のような性格では、先頭に立つことができずにすぐの後続に道を譲ってしまうそうだ。
外人二人も、悪路にあきらめて乗馬。
私の馬がどうにも遅いので、私が重いから遅いのかと尋ねると、「そんなことはない。この馬は300キロまでは乗せられるんだ。オレが見るところ、アンタは重くても100キロぐらいだろ?」だと!そんなにないぞ!!!
楽しく馬に乗っていると、草原に出た。相棒は早速馬にムチをくれてとっとと走り出した。あわてて私も追う。草原には馬やヤクが放牧されていて、やはり羊はいない。草原の終わりに小屋があり、馬幇が休憩!と叫んだので馬を下りた。小屋の中ではチベタンのじいさんがヤクミルクを煮立てていた。一杯2元。安くはないが、浮いてる油をみてもしぼりたてで、中@の町なかで売っている水で薄めたやつとはみるからに味がちがいそう。飲欲(そんな言葉あるのか)をそそる。
実は同宿のシンガポール人が、ゼッタイ飲むな、下痢するぞと忠告してくれていたのだが(彼の兄さんは下痢で寝込んでいた)、「ちゃんと沸騰してるし~」「飲みなれない人は普通の牛乳でもお腹こわすんやし~」と自分に言い訳をしつつ、結局二杯ずつ飲んだ。たいそう濃い味で、実においしかった。そして我々のお腹にはなんの異変も起こらなかった。
さて、ヤクミルクもおいしかったし、さあ進もう!と立ち上がると、「馬はここまで。湖まで行きたかったらあと5元」と言い出した。くっそぉ、やられた~。馬を下りた我々の負けである。ヤクミルク爺が湖まではあと1キロというので、歩くことにする。
ところがこれが大間違い。1キロどころではない上に、山を一つ越えるハメとなり、たいそう辛苦な道のりであった。フランスじいさんが「いや、普段なら、こんな山、たいしたことは、ないのだが、さすがに、これだけ標高がたかいと、酸素が、薄くて、キミ、分かるだろう、いやあ、ふだんなら、こんな道、私は山歩きが好きだからねえ・・・しかし、これだけ酸素が薄いと・・・」と、いつまでもくどくどと言い訳がましくしゃべり続けてくるので、「黙って歩いた方がラクなんちゃう?」と喉元まででかかった。
このじいさんはさっき馬から降りたときも「いやあ、私はヨーロッパではジョッキースタイルの乗馬にしか慣れていないものだから、こういうマウンテンホースにはちょっと戸惑ったよ・・・」などと笑かすことをほざいてくれたのである。乗馬する階級の人種には全く見えんぞ。こっちが東洋人やと思って無茶なはったりをかますんではない。
峠を徒歩で越えているときでも、ずいぶん遅れて後ろの方から私を呼び止めて、「キミの靴と私の靴はいっしょじゃないかね?」「・・・違うと思いますけど(全然違うやんけ)」「どこで買ったのかね?」「香港です」「メーカーは?」「Hi-tecですが。」「聞いたこと無いなあ、スペイン製かね?」「・・・」待ってほしいなら待ってほしいと素直に言え、フレンチじじい。
峠を越えると、再び草原に出た。草原の向こうに美しい湖が広がっている。湖畔にはバンガローがいくつか建っていて、またこのこうるさいフレンチじじい、「こんな美しいところにこんな醜い建築物を建てるなんて! こんな不格好なものを!実に残念だ!」と大仰に騒ぎ立てるのでうんざりした。完全に西洋風に建ててある木造のバンガローである。キミの国にこういうバンガローが無い訳ではなかろう。西洋人に中国人の感性をバカにされる筋合いはない。
こやつは要するに東洋人をバカにしたいだけなのだ。この手の白人は実に多い。いい年してるんだから、それを表に出さないだけの洗練を早く身につけるがよい。このフレンチじじいは、昔香港のドミに長居をしていたころの同室だったジャーマンじじいを思い出させる。タイで働いているそうだが、アメリカ文化のことを「ミッキーマウス的な」「極めてミッキーマウス的な」とけなしまくり、返す刀でアジアをちらりちらりと皮肉るのだが、言葉の端々に自分の回りの世界に対する鬱屈と、有色人種への救いようのない蔑視がうかがえて、慄然とさせられたものだ。(ドイツ人だしネ。)
別の同室のイギリス人の男の子が「不愉快にならんのか」と聞いてきたことがあった。「友人という訳でなし、一時的なルームメイトなのだから、態度と行動が紳士的であれば私はかまわない。あの歳で、こんなとこに泊まってあんなこと言うタイプを相手にしたってしょうがないでしょ」と答えると、彼は「それが東洋的なやり過ごしかたなのかなあ」と肩をすくめた。
湖の淡水魚をスープにしてもらい、昼食とする。湖の回りの潅木に花が咲き、湖に落ちる時期には、この魚は食べられないそうだ。花に毒があり、毒に免疫を持つ魚がそれを食べるからだという。