外国人には開放されていない徳欽に行くことにする。正確には、公安の許可を得てツアーに参加すれば行けるらしい。現在、ここから雲蔵(川蔵?)公路を通ってヒッチでラサに入る外国人が多いため、取り締まりがちょっと厳しいらしい。見つかった場合の罰金が一日あたり70元だか90元だかというウワサがとびかっている。
7時20分、中甸出発。3時20分到着。途中の景色が見事であった! 道は舗装なしの土路だが、バスが新しいせいで比較的乗り心地よし。あと一時間ぐらいで徳欽に着くという地点で、この道はもっとも海抜の高い峠を通過する。海抜4000m強。そこから標高5640mの白茫雪山が見事に見渡せるのだ。バスの運転手が車をとめて「休息芭ー、休息!」と我々に下車を促した。おかげで雪山を心行くまで眺めることができた、なんて粋なはからいだろうか。運転手さんは自分もジュースを一本あけて、雪山の良く見える斜面にどっこらしょと腰をおろした。
15分後、バスは再出発。ほどなく徳欽到着。徳欽は山の斜面沿いに開けた小さな小さな町であった。平らな土地が全く無い。
さて、宿探し。普段なら田舎では通常最も大きな宿、政府招待所を目指すのだが、なにしろ我々はこっそり来ている外国人なので今回はそういうわけにはいかない。個人経営の民宿をあたる。チベット人家族経営の宿、居間には素敵なチベット家具があり、ビンボたれのくせに家具好きの私は目がハート型になった。で、今夜の部屋はは4人部屋25元と安いがトイレがなく、道端にある公衆トイレ(キョーレツな汚さ)まで用を足しにゆかねばならない。しかしゼイタクはいっとれん。
目的の梅里雪山を目指すも、出租汽車(タクシーや白タクや運転手付きレンタカーなど)が全く見当たらない。政府招待所に聞けばあるんだろうけどなあ・・・しかし公安に通報されて一巻の終わりである。仕方なくその辺の車やオートバイなどに声をかけまくり、最後に緑色のサイドカー付きバイクに声をかけたところ、「行ってもいいけど・・・」やたっ!
で、値段交渉。乗合バスだとそんな短距離では乗せてもらいにくく、よくて1人10元ぐらいと聞いていた私は、往復30元でどう?と言ってみた。するとそのハンサムなチベタン兄ちゃんは、「うーん、それじゃあ、今とりあえず行ってみて、天気が悪くて良く見えなかったら明日の朝もう一度行ってみるというので 30元でどうだい?」と、夢のような提案をしてくれた。我々に異存のあろうほどもなく、さっそく横と後ろに乗せてもらう。
雲が多くて雪山の全貌が見えづらく、時間的に逆光で写真を撮るにはツラかったが、しかしやはり期待通りの美しさであった。
この山は地元のチベット族にとっては信仰の対象で、シーズンになるとふもとをめぐる巡礼が途切れないほどだという。これらの話をするとき、チベタン兄ちゃんの漢語はかなり訛っていて私たちには聞き取りづらく、何度も聞き返しているうちに彼は万年筆を取り出して手のひらに聞き取れない単語を書いてくれた。その字が(彼の普通語の発音と比較すると)見事な達筆だったので、「達筆だね~、中甸でもこんなうまい字を書けるチベット族はなかなかいないよ~」と思わず誉めると、「仕事が仕事だからなあ」と彼は照れたように言うのであった。
「仕事?」と聞き返すと、彼は黙って手のひらに書いた。「公安」 う・・・こんなに注意深く公安を避けまくっているというのに、ナゼだ・・・なんで寄りによって公安をヒッチしちゃうのだ、我々は・・・。動揺を必死で押し隠す私と相棒であった。
「ではこの緑色のサイドカーは・・・?」「うん、公用車。」(がーん・・・)「ほら、こんなのも持ってるよ。」と、上着のすそをあげて見せてくれたのはなんと拳銃。(がーんがーんがーん・・・<まるでさぶいシャレのようだが)
にわかに言葉少なになりかけた私と相棒であったが、それもマズイと思い直し、このへんの住民がラサへ巡礼に出るときの準備などの世間話を続けてやがて帰途についたのであった。